序章

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こういった待ち合わせで三人のうちで誰か遅れるとしたら、それは大抵竜也だ。最近は気をつけていたのだが、夏休みになってから、あの声に気を取られて油断した。 「いや、部屋で考えごとしてたからさ」 一応言い訳っぽく言い返してみると、いきなり哲司が吹いた。 「考えごとって……お前が何か考えることなんてあるのか?」 ──なんか腹立つし、無視するか。もうそろそろ、プールに飛び込みたくなってきたしな。 竜也そう思って、無言で踵を返し、笑う哲司を背に更衣室へ向かった。 「海パン履き忘れるなよ!!」 哲司のからかう声が追いかけて来た。振り返って「うっせーよ!!」と一言叫び返す。 今回に限らず、哲司はよく悪ノリする。付き合い始めた頃は二人でよく喧嘩になったが、長く付き合ううちに、竜也は次第にその扱い方を覚えていった。
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