3 あなたの言葉

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3 あなたの言葉

 電話口で言っていたね「朝ごはんはバナナを食べる」と。バナナが苦手な私は「すごいね」と言った。  同窓会後に、私たちはたまに電話をするような関係になった。それもそんなに頻繁にではなく、ひと月に一度あるかないか。あなたが電話をかけてくるのは大体次の日が休みの金曜日か土曜日の夜が多かったね。一回の電話で二時間近くは話をする私たち、取り留めのない話ばかりしていたね。でも、ひとたび真剣な話をすると、あなたは真っ直ぐに真剣に答えてくれたよね。しっかりと自分の考えを持っていてそれを私に伝えようとしてくれる。  私が悩みを打ち明けたとき「分かるよ」と言ってくれて、その上「でも」と続けてくれたよね。 「でも、それが君の選んだ道。その道の途中で悩み葛藤することは当然。そして答えを教えてくれる誰かなんて現れることはない。世界はそんなに甘くはない。でも、今君が歩んでいる道を間違いだったとは君自身だけは思わないで欲しい。自分で自分を否定することだけはしないで欲しい。」  あなたが言ってくれたこの言葉、それは私にとってとても重要で大切な宝物。感情に当てはめることのできない思いがこみ上がってきた。そして同時に痛感したんだ。あなたの言葉は麻薬のようだと。例えばあなたが私にとっての悪だとして、それを私は知っていて、それでもバカみたいにその言葉を鵜呑みにしていまう私がここにいるとしたら、それはきっと本当にそうしたいと願う私の願望なんだと思う。でも願望は願望で、願い望むだけ。本当にそうなってしまうわけにはいかない。だって悪に恋する勇気はないけど、悪を信じてしまうことは起こり得るから。だから、私はきっと私はあなたの言葉を生涯忘れないだろう。私にとっては大切な、価値ある一言だったから。  誰かにとって大切な宝物を与えることができる人間、そんなことができる人間が一体この世界に何人いるのだろうか。ただ一つ言えるのは、彼は間違いなく、その一人なのだ。
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