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「でも、僕は、最後まで、臼杵さんと一緒にやりたい。日本の出版文化に、貢献したいんです」
直緒は、幼い頃から、本が好きだった。
今、本の為なら、我が身を犠牲にしても、惜しくなかった。
臼杵は目を丸くした。
「本谷君。それは嬉しい。嬉しいのだが……」
「僕を拾ってくれたのは、臼杵さんだ。僕は、この会社に、返しきれない恩があります!」
新卒で、直緒は、就職に失敗した。出版社ばかりを100社近く受け、玉砕した。
その直緒を受け容れてくれたのが、臼杵デザイン事務所だった。編集経験どころか、社会人経験さえなかったにも関わらず。
もっとも、指導や研修などは、一切なかった。
……「仕事は先輩から盗め」
それが、直緒が会社に入って、一番始めに教えられたことだ。
もちろん、初日から、深夜残業をさせられた。
だが、直緒は苦ではなかった。
愛する本の世界で働けることが、誇らしかった。
「僕は、本の世界を離れたくない」
「俺だって、君を手放したくないよ。君は、俺が鍛え上げた部下だからな」
「……」
臼杵から教わったことで、一番役に立ったのは、客先から催促の電話がかかってきたら、とりあえず、「今、出ました」と言うことだ。
それで、時間を稼ぐ。
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