三角関係の頂点は?

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 その時、受付の前で、人の声がした。  そういえば、その少し前にエレベーターのドアが開いたのだが、新しいお客でも入ったのだろうか。  ばたばたと慌ただしい靴音が近づいてきた。アートを鑑賞する態度じゃないなと眉を顰めていると、肩をぎゅっと掴まれた。  驚いて振り返ると、こめかみに青筋を立てた男が立っていた。 「あんた! モーリス出版だな! ぬけぬけと芳名帳に記帳しやがって」 「ちょっと。なんだよ、いきなり。失礼だろ」  直緒は、肩をがっちり掴んだ手を振り外した。  男は舌打ちした。 「失礼はどっちだ。こんなところでちょろちょろするな」 「はあ? ただ絵を鑑賞していただけじゃないか」 「ここにはお前のような者が鑑賞する絵は、一枚もないわ!」 足を踏み鳴らし、威嚇してきた。 「モーリス出版の出番はない。帰れ!」  強い命令口調で言われて、直緒はむっとした。  一方的に攻撃されて、黙っていることはできない。 「そもそもあんたは誰だ。何の権限で、そんなことを言う」 「いいだろう。俺は、桂城圭(かつらぎ けい)。しあわせ書房編集者だ。吉田先生は、しあわせ書房のもんだ」  ……しあわせ書房?  それは、絵本や児童書専門の出版社だ。  吉田ヒロムという画家の、この、柔らかく優しい絵柄……。  なんだかひどく納得してしまった直緒だった。
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