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「でも、先生……」
桂城が、泣きそうな声を出した。
控室で、典子は首尾よく、画家の吉田ヒロム先生と会えたのだろう。
連れだってギャラリーへ現れたとみえる。
静かに吉田先生は言った。
「僕の絵を挿絵に欲しいということは、モーリスさんも、僕の絵を認めてくれたってことだよ?」
「許しませんっ、BLなんかっ」
益々鼻息荒く、桂城は言い募った。
「先生の絵が荒れる。先生は、しあわせ書房の絵本にお描きになるのです。たくさんの子ども達が、先生の絵を待っているのです」
「しかし……」
「ギャラのことなら、心配しないで下さい。先生の為に営業部と掛け合って、たくさん仕事をもぎとってきます。僕と一緒に、ミリオンセラーを目指しましょう!」
桂城は、鼻を鳴らして、直緒を指さした。
「吹けば飛ぶような零細企業に、先生への謝礼なぞ、払えるわけがない」
「ふふふ」
不敵に典子は笑った。
桂城は、はっとした顔になった。
「そうだった。こいつは、一乗寺建設の……」
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