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老婦人は莞爾(かんじ)と笑った。
「お嬢さん。フの大先輩として言っておくが……人前で妄想を垂れ流したら、いかんぞよ」
「……はい。肝に銘じました!」
典子は再び頭を下げた。
老婦人は頷いて、エレベーターの中へ消えた。
「あれこそ、貴腐人(きふじん)……」
感に堪えぬという風に、典子がつぶやく。
弾かれたように、吉田先生が笑い出した。
「……先生?」
不安そうな桂城の声。
「モーリスさん、お話はお受けしますよ」
「先生!」
「桂城君、君は黙って。あのおばあさんはね。もう長いこと、僕のファンなんだ。展覧会には、毎回、来てくれる。絵を数点、買い上げてもくれた。それなのに、彼女が貴腐人だったなんて、今まで知らなかった。僕は、新たな地平に立った思いだ……」
「ふふふ」
嬉しそうに典子が笑った。
「わたしも、先生の絵が大好きです! 絶対、先生はお描きになるべきです! BLの挿絵を!」
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