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ヒロム先生の展覧会場を出てから、直緒は、どうも後ろが気になる。
視線? を感じる。
思い切って振り向いてみた。地味な色のスーツを着た女性が、後ろにいた。
直緒が振り向いたことで、女性は少し驚いたような顔をし、そのまま、直緒と典子を抜いて行った。
「どうしたの、直緒さん」
のんびりと典子が尋ねる。
「誰かに見られてたような気がして」
「まあ、素敵。スパイかしら。きっと、背後にアラブの石油王がいるのよ。もちろん、男の子だけのハーレムを持っているの。日本人のかわいい子がいたら、ひっさらって……」
「誘拐の心配をするなら、内臓売買か国籍利用を心配してください。第一、あなたは女性でしょうが」
「でも直緒さんは男……いけない、つい、また。さっき、腐の大先輩から言われたばかりなのに。ごめんなさい、直緒さん」
「? 何がです?」
「なんでもない。自主規制、自主規制」
「……」
直緒はまだ、後ろが気になる。
しきりと振り返る。
「そうね。バックを気にするのはいいことだわ」
「護身術の基本です」
だが、もう、人の視線は感じられなかった。
あるいは、さきほどの女性の視線だったのかもしれない。直緒と典子は、並んで歩いていた。あの女性は、追い抜こうとして、なかなか追い抜けず、いらいらと二人の後ろ姿を見ていたのかもしれない。
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