第1章 1話「プロローグ」

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冬のある日の事だった──。 「今日はやけに冷えるな……おかしいぞ」 手の霜焼けを抑えるように両手に息を吐く。 口から出た白い煙はゆっくりと視界から消えていく。 外はもう一面クリスマスムードである。 12月に入ったばかりであるが、時の流れははやいものだ。 おっと、自己紹介をするのを忘れていたな。 俺の名前は雪野 (ゆきの かける)。葛西高校の2年生だ。 葛西高校の校訓は「自由」。 髪型、髪色を変えたり、携帯電話の持ち込み可、なんてのは序の口。 特に1番驚かれるのが高校への出席さえも自由なのだ。 俺は高校受験に失敗して、第二志望も受からず、第三志望で調子に乗って書いたそんな高校に行くことになった。それでも俺はこの高校に通い続ける。 なぜかって?それは、楽だからさ。 人生気楽に生きなければ損。 それが俺のモットーである。 そして、一部のマニアから憎まれるかもしれないがちゃんと幼馴染みもいる。 そう、彼女の名前は── 「かっけるー!」 声がすると同時に、俺の背中に衝撃が走る。 「ごはっ!?」 俺は衝撃で5mほどアスファルトの地面を転がり、挙句の果てには自動販売機にぶつかった。 「いったたた……てか、なにしやがんだよ香澄!」 どうやら飛び蹴りをしたようだ。 そして、残念ながらこの香澄というのが俺の幼なじみ柳田香澄(やなぎた かすみ)。 女子空手全国選手権1位を二連覇している怖い女である。 「いやぁ、つい……ね!」 「つい……ね!じゃねぇよ!死ぬかと思ったわ!」 「い、いいじゃない別に!幼馴染みなんだから!」 「お前の幼馴染みの解釈が怖いわ!」 ふと、そこで会話が途切れる。 俺は制服についた土埃をはらい、戦闘態勢をその間に整える。 香澄が呟く。 「今日は……寒いね」 「あ、あぁ、そうだな」 また沈黙が続く。 な、なんなんだいきなり。この雰囲気は。 き、気まずい……。 「お、おい……どうし──」 「さ、帰ろ!翔!」 表情を笑顔に変えて香澄はそう言った。 「あ、ああ」 そう言って香澄と一緒に歩き出そうとしたその時だった。 白い点が目の前を上から下に横切る。 「ねぇ……雪……雪だよ翔」 香澄がポツリとつぶやく。 雪のふらない街に初めて雪が降った。 「今日は……本当におかしい日だ」 俺の呟きは、雪の静けさと自動販売機が壊れて「当たり!当たり!」と繰り返している音にのまれて誰にも届くことは無かった。
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