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第1章 3話「謎の少女と隠し味」
階段から降りてくるのは着物を着た少女。
短髪だが、顔がぼやけていてはっきりとは見えない。
身長や年齢は、十年前の俺とほぼ変わらないと推測する。
そして、泣きじゃくるもう1人の俺にそっと寄り添って頭を撫で続ける。
そして少女は何かもう1人の俺に伝えているらしいが、俺の耳には全く音が入ってこない。
もう少し聞きたいと思ったが、眩しい光が差し込み始め、再び目を開けると現実の世界へと戻ってきていた。
「だ、誰だったんだあれは……?」
思い出そうとするとやはり頭痛が走る。
鍵がかかっているかのように。
とりあえず俺は、考えるのをやめることにした。
その直後、一恵さんから声が掛かる。
「翔くんー!ご飯出来たわよー、もうそろそろ起きた方がいいんじゃないかしらー?」
「あ、はい!今行きます!」
俺は学校へ行く支度を急いでしてダイニングへ向かった。
香澄は既に起きていたが、朝ご飯に手をつけていないところを見るとどうやら待っていてくれたらしい。
一恵さんはキッチンで洗い物をしている。
「おはよー!翔!」
「おはよう翔くん」
「おはようございます、一恵さん。おはよう、香澄。待っててくれたのか?」
「うん!今日はお母さんが隠し味を入れたらしいから、どうせなら一緒に食べようかなって」
「そうか、なら早速食べよう」
「「いただきます」」
ちなみに、朝ご飯は味噌汁に卵焼き、ベーコンとキャベツの千切りとどこにでもあるものだ。
なぁ、察しがいいあんたなら分かるよな?
どこに隠し味が入っているのか。そう、俺も味噌汁だと思う。
しかし、違った。味噌汁はいつもの味だった。
「なぁ、香澄。隠し味って一体な──」
さっきから香澄が黙っていると思ってきにしてたら目を白目にして──気絶していた。
どうやら卵焼きを食べたらしい。
い、一体なにが入っているんだ。
一口食べる。
「…………!?!?」
一瞬にして自分の顔が青ざめていくのがわかる。
嘘……だろ……?なんで……卵焼きが……酸っぱい!?
「か、一恵……さん?予想はできてるんだけど……これ……何入れました?」
「うふふ。それはねぇ……お、酢!」
ええええ…………。
笑顔のウインク付きで答えが返ってきちゃったよ。
一恵さんはものすごく美人だが、今の状況では惚気ける笑顔も悪魔にしか見えないんですけど。
その日は2人とも学校を休んだ。
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