―第二十節 種アカシ―

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体が動かない。真っ暗な闇。それでも体を包む柔らかい感触。ぬくもり。家族が気遣って花でも飾ってくれたのかな。僕は火の中に落ちて死んだ。僕はこれからどこへ行くのだろうか。もしかして、ずっとこのまま…?現実の世界にはやり残したことだらけだ。親にも何もしてやれなかった。青春も謳歌する前に終わってしまった。ああ、みんなともう一度話したい。他愛のない話でもして笑いたい。みんな、もう一度声を聞かせてよ… 「目覚めましたか、勇者星輝君。」 え?成太?白い天井… 「助かったわ。星輝君。」 「無事でよかったあ。」 「ったく、一時はどうなるかと思ったぜ。」 「手術は成功、回復の見込みあり、ってところかいな。」 「僕、生きてたの?」 「あのね、愛里ちゃんが、星輝君を上昇気流でスピードを落としながら川に落としてくれたの。」 「星兄、死んだら承知しないよ!星兄…」 「あらあら。本人はまだあなたが起きたこと、気が付いてないみたいよ。」 「警察と救急車呼ぶときは携帯が水没してて大変だったんだぞ。」 「星輝君、操られていたとはいえ、攻撃して済まなかった。僕は公衆電話から警察と救急車を呼ぶことしかできなかったけど、お大事に。これからもこのデブをよろしくね。」 「あ、おじさん。ワンちゃんは無事やったんやな。」 「そう。デブを突き飛ばした方向が川側だったもんで、すぐに水に飛び込めたみたいだ。」 「でもこの犬、痩せてるよね…」 「僕はね、初めに飼った犬の名前を踏襲することにしてるんだ。そいつがあまりにもデブだったもんで…」 デブじゃないのにデブと名付けられる犬の気持ちになれば、そりゃあ飼い主を好きになれないだろうなあ。 「ちなみに星野逵は捕まり、あの河原の火も消され、川の爆弾も撤去されたそうですよ。」 「あ、お医者さんが来たわ。」 「みなさん、いったん外に出てください。」 若そうな医者が僕の病室に入ってきた。ん?若いといっても度が過ぎるような?身長も体格も僕ぐらい。当然年齢も… 「あ、あのね、星輝君、私ね…」 「智衣。後で。今はお医者さんもいるから。」 「あ、ご、ごめんなさい。」 足早に部屋を出る智衣ちゃん。みんながいなくなった後、その医者が話し始めた。
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