1

14/31
前へ
/95ページ
次へ
藍井紅羽(あおいくれは)。今は苗字が【東條】に変わってしまったけれど。 僕の世界を色づけて動かしてくれた女の子で、僕の世界の全てだった。 今は、もう。ひとの妻になったけれど…… 「な、何だよ。泣くなよ。な?買ってくれたのは嬉しいからさ」 ハンバーガーの袋を抱え、少女がおろおろと気遣ってくる。 「……泣いてないよ。驚かせてごめんね」 人前だということを思い出し、とっさに取り繕って微笑んだ。 「誤魔化すなよ、泣いてるじゃんか。辛いときは我慢するの、よくないぞ」 涙なんて出ていない。けれど心に鋭く切り込んでくる少女の言葉を、とっさにかわす。 「ホームレスのフリするのもよくないよ。危険な目に合わないうちに、家に帰るんだよ」 少女に視線を合わせて、微笑んだ。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1862人が本棚に入れています
本棚に追加