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少しずつ浮き足立つ街並み。 何の感慨もない。 いつもそばにいたひとがいないだけで、街はこんなにも味気ないものに見えるのだと、少し驚いた。 子供の手を引き楽しそうにすれ違う家族や、肩を組み時々キスをかわしながら行く恋人たち。 「またみんなでクリスマスパーティーやってるのかな」 日本語での小さな呟きは、真っ白な息とともに夜の街に消えていった。 「彪翔、そっちは楽しい?」 珍しくかかってきた電話は、従兄弟からのもの。 「別に。普通だよ。何も変わらない」 「正月はこっち帰ってくるよな」 僕が帰らないことも帰らない理由も分かっているうえでの、念押しだ。 笠井倭(かさいやまと)。僕の従兄弟で同僚で、間近でずっと見ていた奴だから。
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