第1章 英雄に憧れる少女

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母さんはまた困った顔で囁く。笑みが消えている。 「臆病者は大切なものを失わないために臆病者になってしまうの。リース、あなたは立派な王族の嫁入り候補だから丁重に扱われて当然なのよ。もっと自分を大切にして。臆病になって」 アタシは苛立ちを出さないように片足を揺さぶる。 何もかもが気に食わなかった。21歳の国王ドラゴンランド37世様は顔は良いという噂だ。だが、女は嫁にやるものだと考えている母さんの価値観が癪に触る。 「アタシがアタシであるためには母さんの言葉に耳を貸さない必要があるんだよ!嫁?戦略結婚なんかクソ食らえ」 アカウミガメのスープは少し不味かった。 シルクのテーブルカバーにポタリとスープが落ちる。 シャンデリアが時々、点滅して幻想的だった。 まるでアタシの心を抽象しているかのようだ。明るい時、名家の子孫。暗い時、国王の嫁入り候補。 イカマヨのソテーを食べ始めた時、ラウルが光の上級精霊のロードクライと一緒に、騎士姿を身にまとい現れる。重々しい筈なのに颯爽とした姿はアタシを嫉妬させるのに充分だった。 「よ!一族の恥晒し者。お前に稽古してやるよ。師匠が風邪で倒れてな」 ラウルの軽口を訳すると〝暇だから弱い者イジメしたい〟になる。 それでもアタシは売られた喧嘩は買う主義だった。
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