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ラウルはロードクライに何かを命ずる。大きな羽根の生えた金色のクリオネのような形をしたロードクライがアタシの体に浸透する。
心地よさに思わず目を瞑る。
力の抜けたアタシをラウルが優しく支える。
ラウルの赤髪がサッと揺れて、心配そうな顔が見える。
アタシは目を薄っすらと開けると一言呟く。
「卑怯者」
そのまま、意識を失った。
起きると昼の15時ぐらいだった。
自分の部屋のベッドまで運ばれたのに気付くと、ラウルの紳士ぶりにことごとくウンザリさせられる。
フューが心配そうに飛び回っていた。
「アタシをそんなにコケにしたいのか?気持ち悪いヤツ!フュー、大丈夫だから」
街で食べ歩きしてストレス発散させることにする。街では名家の子供は優遇されていて、タダで食料が調達できる。
結局、負けたようなものなのに鼻歌を歌いながら、街をのしのし歩くのは気分が良かった。
「お!リース!」
「リースちゃん、今日はどうしたの?」
「リース、久しぶりだな!元気だったか?」
「リース、アホ毛立ってる!」
次から次へと挨拶が交わされる。アタシはこの辺りでは有名な人気者だった。
皆、穏やかで優しい人ばかりだ。アタシがもし、国王の嫁入りすればこの街の人達は経済的恩恵を与えられる。街の平和が約束されるのだ。
アタシがなりたいのは〝英雄〟。皆、勘違いしている。
硬いパンにバターを塗って口に含む。蕩ける甘さに顔が綻ぶ。
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