プロローグ

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私、あなたのことを覚えている。 髪をすくって額を分ける滑らかな指先。 生え際を何度も何度もなでて、こわれものをくるむように私の両頬を包む。 あたたかい。 重い瞼の向こうは朝日が燦々と降り注いで、まぶしくて目を開けていられない。 ううん、ちがうの、本当はね。 あなたが誰か知るのがこわい。 こんなにやさしく触れてくる、あなたは誰? うれしくて、くすぐったくて、胸があつくなる。 額に、あなたの髪がかかった時、全てが光に包まれて、彼の気配が消えていく。 やだ、待って、行かないで。 今は遠く離れているけど、私、忘れない。 あなたの指、髪、吐息、そして―― 私はあなたと必ず巡り会う。 その時、私は。 私たちはどうなるんだろう。 あなたは、誰? 雲をつかむようにまっすぐ伸ばした指先は天を目指し、そして彼女は目覚める。 寝起きでぼんやりとした視界の先には、天井の板の目が動物の眼のように彼女を見下ろしている。 「……またこの夢見ちゃった」 ぱたんと布団の上に手を落とし、彼女はため息をついた。
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