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4月1日。
世間一般には4月バカ、エイプリルフールと称される日だ。
大っぴらにウソついても許されるというふざけた特別な日。
そう、今日は特別。入学式の日。
念願叶って、天下の白鳳大学生になれる。
第一志望で、唯一受験した大学へ通える。
新たな一歩を踏み出せる。
4月1日は、もうすぐ19才の誕生日を迎える彼女、尾上裕(おがみ ゆう)の、記念すべき日になるはず。
こんなにうれしいことはないの!
そう思えると、昨日寝る前までは思っていた。
しかし、何やら良からぬ予感しかしない。
何故なら、今朝は夢見が悪かったからだ。
しばらくあの夢見てなかったのに。これはきっといつもと違う場所で寝起きしたからに違いない!
裕は頭を振る。
そして彼女はちらりと周囲に視線を移した。
彼女の視界には、ついさっきまでいた見慣れない建物、入学式の会場がある。
式典には大学構内にある大講堂が使われた。
入学式や卒業式以外に使い道がないとしか思えない、ばかでかい作りの建物だ。
今まさに式典を終え、ところてん式に押し出された人々が、ばらばらと散っている。
くせがまったくない長い髪をなびくにまかせて街中を行く彼女は、かもしかのようなしなやかな肢体と、少し小さいうりざね形の頭、そして、女子ならば自分に足りない部分を隠して、かくありたい姿になるように彩りを加えるのに、その努力をあざ笑うかのような容貌を持っていた。
大きな瞳は輝き、うんとすました鼻梁はすっと通り、きかん坊のように引き結んだ唇は気の強さを浮き彫りにする。
もう少し油断して、ぽーっと力を抜いたくらいだと可愛らしいお嬢さんに見えなくもないが、彼女にそれを望むのはムリというものだ。
人目は惹くが、声をかけるのをためらわせ、遠巻きにさせるような威圧感を持つ女子。
少女の頃から変わらない尾上裕のポートレートだ。
笑顔は大層かわいらしいのに、険のある目付きは人を、特に異性を牽制する。
「せっかくの美人さんが台無しだね」
裕が赤ん坊の頃から知っているというお隣さんは、彼女の頭を撫でながらいつも言った。
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