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あ、手を上げてる。こっち来る。
やだー! 来ないで!
彼女は歩く足を速めた。高校の頃に履いていたような靴なら絶対抜かれない自信があるのに、今日は踵が高い靴を履いていた。
あっという間に追い付かれてしまった。
――もう絶対、パンプスとやらは履かない!!
「君、歩くの早いね!」
問われて、笑顔を作った。
「そう? 先急いでたの。何か用?」
「うん。お茶、いっしょにどう?」
えええー? 信じられない!
こいつは何言ってるの!
先急いでるって、私、言ったよね?
聞いてないの?
ホントに「お茶どう?」って誘う人がいるなんて。
ばかみたい。
内心おかしくて仕方がない裕は、にっこり笑って答えた、「叔父の研究室に寄るから、だめ」と。
「研究室って、どこ? 君のおじさん、この大学の教員?」
「そう」
「誰? 誰?」
うるさいなあ。
雲霞を手で払うようにバイバイしたいが、人間と虫を同じ扱いはできない。ため息つきたいのを押さえて応じた。
「尾上慎一郎っていうんだけど。知ってる?」
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