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まるで鬼瓦のような真四角でいかつい風貌をした裕の父は、見たまんまの頑固さを誇る。
対する母は、すらりとした細面に細い目の持ち主で、黙っていれば菩薩様に見えてくるような雰囲気を纏う。
がたがたうるさい父とよくやっていけるな、と子供心に不思議でならない穏やかな佇まいで、和服がとっても似合う。
もし、今日、この場にいれば、鬼瓦の隣に和装の菩薩様カップルは人目を惹きまくることだろう。
……想像したくないや。
来てない方に希望を繋ごうっと。
裕は、新旧学生の波をすいすいと、ヨットが滑るように歩を進めた。
辿り着いた先は教職員の研究室に割り当てられている建物で、名を扶桑館という。
壁にはところどころひびが入る、見るからにボロい――いや、年季が入っている木造の校舎は、廊下を歩くときしり、階段は今にも抜け落ちそうだ。
裕が通ってきた小中高、どこの後者もコンクリート造りで、ここまで古い建物はあまり縁がない。
あるとすれば、生家ぐらい。
この、ボロくてカビ臭い建物へ足を運ぶのは何度目だろう。
何十回、いや、それ以上は行っている。
今までは客だった。今日からは学生として行き来できる。
うふ。
うれしい。
つい、顔がほころぶ。
階段を上がり、2階の奥にあるドアをコンコンとノックする手も軽やかなものになる。
「入りたまえ」
聞き慣れた声がした。
裕は何のためらいもなく、足を踏み入れた。
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