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「おはよー!」
背中に衝撃が走って、前につんのめる。なんとか踏みとどまり、倒れるのを免れた。
「…葵」
振り返ると、何の悪意もない子どものような笑顔で、葵が立っていた。
「よっ!」
左手で敬礼のポーズを取る葵。腰まで伸びた黒髪は、今日もはねている。
葵は小学校からの幼なじみで、家も近い。それゆえ気の知れた存在ではあるが、時としてそれが厄介でもある。
「友紀、さあ。最近、変じゃない?」
「はあ?」
「最近っていっても、ここ数ヶ月なんだけど」
数ヶ月という単語にドキリとする。あれから既に3ヶ月が経っていた。未だに肉じゃがを作った人が誰なのか気になりつつ、探す術がないモヤモヤが胸に燻ったままだ。
「まあ、言いたくないならいいけどさ。あんまり一人で抱え込むなよ」
バンッと叩いた葵の手は、もう一度俺の背中に衝撃を与えた。もう、倒れ込みたくて仕方ない。
「…この背中の痛みも、一人で抱え込まなくていいだろうか」
葵がきょとんとした顔で「え?」と言った。
ガンッとリングを揺らして、バスケットボールは跳ね返った。外野から「惜しい!」という声が聞こえた。同級生のヤマトである。
「うるせーよ」
俺は不機嫌に返した。その直後、わーっと甲高い歓声が沸き起こる。ネットで区切られた体育館の半分では、女子バスケ部が練習している。
「みゆき、すごーい!3ポイント決まったじゃん!」
「えへへ」
顔を赤らめながら控え目に笑う彼女は、1つ年下の後輩である。この部に入って初めてまともにバスケをしたと言うが瞬く間にその才能を開花させた。156㎝という小柄ながら、女子バスケ部次期エース候補である。
「あんな可愛くて運動も勉強もできるんだから、凄いよなあ」
つい口から漏れていただけだったのだが、ヤマトはじろりと横目で俺を見た。
「お前、みゆきちゃん狙ってんの?」
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