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「まさか」
俺の返事は聞こえたのか聞こえなかったのか、ヤマトは顔の前で右手をぶんぶん振って言った。
「ダメダメ。あいつ、明と付き合ってんだから」
明は男子バスケ部のエース。俺らと同級生の彼と旭野みゆきは、4月から付き合い出した。明は落ち着いているが決して冷淡な性格ではなく、高身長。切れ長の目がかっこよく、男子でも憧れる端正な顔立ちだ。少しデコボコだが、彼らはバスケ部発のベストカップルと言える。
「旭野と明が付き合ってるのは知ってるよ。可愛いとは思うけど、人の彼女奪う気力はねーよ」
ヤマトはため息をつきながら手を組んで、後頭部に当てた。
「まあ、特に明が相手じゃなあ…。2人が付き合い出して、諦めていった明ファンとみゆきちゃんファンがどれだけいるか」
「どれだけいるの?」
「明ファンは、少なくとも3人知っている。みゆきちゃんファンは4人かな。その1人が、俺だ」
キリッとした顔をして親指で自分を指すヤマト。旭野を狙っていたのはお前の方じゃねーか、というツッコミもする気になれない。
「ま、お前には葵ちゃんがいるからいいじゃねぇか!」
急にヤマトがにかっと笑った。突如出てきた葵の名前に顔が歪む。
「葵ぃ?」
「だって、葵ちゃんとは幼なじみなんだろ?で、今も同じクラスなんだろ?登下校も一緒にしてるし、こんなオイシイ関係は他にないぞ!」
確かに葵は不細工ではないし、気の置けない仲ではあるが、それだけだ。何よりも、この手のことは度々言われるので、正直鬱陶しい。
「勝手なことを。俺も葵も、そんな風には思っちゃないさ」
足元にボールが転がってくる。俺がそれを拾うのと同時に、ヤマトは「そうか?」と首を傾げた。
「お前らが話すときって、いつも葵ちゃんから話しかけてるよな。葵ちゃんは、まんざらでもないんじゃねーの?」
「友紀ーっ!」
自転車のスタンドを上げたとき、遠くから叫ぶ声がした。顔を上げると、葵が手を振りながら走ってくるのが見えた。
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