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「今帰り?」
「あ、ああ」
葵はバレー部だが、帰る時間はだいたい同じだ。
「じゃあ、一緒に帰ろうよ!」
「いいよ」
葵も俺も、自転車を押しながら歩く。まだまだ空は明るくて、ふっと日が伸びたことを感じた。
「それでね、ボールが柵を越えて川の方へ行っちゃって…」
バスケ部やバレー部など、体育館を使う部活は日替わりで外で練習したり、体育館や市民体育館などで練習したりする。今日は、バレー部が外での練習の日だったらしい。
「そうそう、川から委員長が見えたのよね」
「委員長?」
「そう、野々部さんがね」
野々部秋乃は、俺と葵のクラスの学級委員長である。眼鏡をかけていて髪はおさげ。神経質すぎるくらい真面目で、絵に描いたような根暗だ。
「野々部さん、何してたの?」
葵は変な顔で俺を見た。そして、こう言うのだ。
「多分、体育館を見てたんじゃないかな」
少し心臓が止まりそうになった。確かに生物室から体育館の中は見える。あの眼鏡が知らぬ間に自分たちの練習を覗いていたかと思うと、急に背筋がひやりとした。
「な、何のために」
「たぶん…」
それきり葵は口をつぐんだ。「たぶん…」の後が気になって仕方ない。
「なんだよ!早く言えよ!」
声が荒げられる。脳内では、暗い生物室の窓辺に立つ委員長の眼鏡の銀縁が、怪しく光っている。とても不気味で、とても恐い。
「私ね、友紀を見ていたんじゃないかと思うの」
ひっ、と小さく声が漏れた。今までにない寒気を感じた。
俺を見てた?委員長が?なぜ?
止まりそうな思考を巡らせる俺を余所に、いつの間にか葵はにっこりと笑っていた。そして、上目遣いに俺を見ながら言った。
「私ね、委員長って、友紀のこと好きなんじゃないかと思うんだ」
俺の歩みはピタリと止まった。それにすぐに反応できなかった葵は、2、3歩進んでから俺を振り返る。
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