0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
*
教室内の緊張感は秒刻みに高まっていく。
試験開始まで残り一分。
それぞれの目の前には、表紙に「国語」と書かれた冊子が一つずつ並べられている。
一分後にはこの問題を解き始めて、六十分後には回答用紙を回収される……。
そう考えるだけでお腹が痛い。
前の女の子は、さっきから貧乏ゆすりが止まらない。小さいながらも、こん、こん、と一定のリズムを刻んでいる。
その隣の男の子は下を向いてひたすら祈りを捧げているらしかった。
私は、不思議とそんなに緊張しなかった。
大丈夫よ、あれだけたくさん問題演習をしてきたし、きっと受かる。
そう言い聞かせていると、少しのお腹の痛みは快い刺激にすら感じられる。
教卓に立っている試験監督が腕時計を確認した。
手元の時計は「あと二十四秒」と告げる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
そう言い聞かせても、さっきまでの少しの余裕は嘘のように無くなっていた。
あと、十五秒。
早い、待って、まだ、心の準備が。
前の子が耳に髪をかけた。
男の子はまだ祈っている。
心音がうるさい。
心臓が全身を揺らして、目が落っこちそう。
逃げるな、この日のために勉強したんじゃない。
そうよ、絶対に受からなきゃ。
受からなきゃ、私はまた―――
試験監督が口を開く。
「始め」
火蓋が切られた。
もう、逃げられない。
最初のコメントを投稿しよう!