いち

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いち

あなた誰かに愛されたことがあって? 今日の午後深い色のレンガと美しい花壇が特徴の学園の中庭でそんなことを言われた。 投げかけられた言葉が頭から離れない。 それでもそんな言葉に怒りも悲しみも覚えない程度には私の心は冷めきっていた。 あの時私は何もない空に目をやりただただその時が終わるのを待っていた。 この世界の誰にも愛された事なんて無いよ。 はるか昔、記憶の片隅で誰かが私を愛おしげに眺めていた気がした。 それはきっと馬鹿な私が勝手に考えた妄想だ。 だって私は七.八歳より前の記憶がない。 一番古い記憶は当時住んでたらしい孤児院から追い出されたその時の記憶……。 四畳半のボロいアパート。 テーブルとベットしかない小さな部屋。 おかえりの声もないそんな場所が唯一の居場所だ。 制服を脱ぎ、動きやすい格好に着替えればすぐにギルドへ向かった。 一人暮らし書類上の保護者はいても頼る人間などどこにもいない私は学生をする傍らギルド員として依頼を受けて生計を立てていた。 どういうわけか私は人から嫌われやすい。 安全な場所でアルバイトでもして生計を立てたかったがいつもすぐにクビになるか一目見た瞬間面接を落とされて働ける状況にはなれなかった。 実力があればその他は問わない、そんなギルドは私にピッタリな職場だ。 まぁ、ギルドマスターや受付、ギルドによく溜まっている人達からは異常に嫌われてはいるが。
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