オレンジ

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「引継ぎはきちんと済んでいるから何も心配しないでください。それよりもこれからはどうするんですか?」 「うん……定年後の事なんて考えたこと無かったからなぁ」 「旅行とかどうですか? 奥さんと一緒に国内でも世界でも」 「旅行ね。うん……」  唸り考え込むと、女子社員の横に立っていた社長が私の肩を叩いた。 「まぁまぁ、三雲さん。時間はたくさんあるんですからゆっくり考えて下さい。『第二の人生、どう楽しむか?』――これからが人生の華ですよ」 「『第二の人生』……ですか」  快活な笑みを浮かべる社長に対して、私は心細さを隠すように微笑み返す。  私は俗にいう仕事人間だった。いつも遅くまで残業し、休日は仕事を持ち帰ってこなしていた。それは仕事が好きだからと言うよりも、他に趣味が無かったからだ。正直に言うと今、見送る仲間達への感謝よりも戸惑いが大きい。  仕事をやめる実感が湧かないのだ。  ……これからどうしようか?  胸の内に小さな穴ができたのを感じながら、仲間達の見送りを受けて私は会社を後にした。
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