天界の古生物学者

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 白亜と頁岩が交互に重なる崖の下を歩いていた青年というにはやや幼さを残す彼はひとり呟く。 「うん。ここはいい場所だ」  少なくとも、放校になった士官学校よりも数段良い、と彼は崖を見上げる。ブルー・ライアスと地元の人々が呼ぶ断崖からは巻貝や魚、クロコダイルの化石が出ると聞いていた。  ――おや。  白い石灰岩の崖に形あるものを認め青年は目を凝らす。  ――巻貝だろうか。  ひとつに手を伸ばし、指先で掘り出してみた。白く脆い崖からはカタツムリのような、けれど螺旋の先端がどちら側にも突き出していない巻貝の形の石がぽろりと外れ、彼の手のひらに収まった。 「ヘビ石よ」  投げかけられた声は高く少しかすれた子供の声だった。彼が慌てて振り向くと薄汚れた―地元の子としてはごく当たり前の格好をした―女の子がいた。十歳か十二歳か、そのくらいの子だ。 「ヘビ石?」 「聖ヒルダがヘビの化け物を退治したの。首がもげて丸く石になったのがそのヘビ石」 「巻貝じゃなくて?」 「アンモン角(コルム・アンモニス)なんて呼ぶ人もいるわ」  少女の唇からは、その見た目の幼さに反し難し気な単語が紡がれた。 「君は?」 「メアリ。このすぐ上に住んでいるの」 「教会の子?」 「いいえ。その隣の家具職人の子」 「僕は――」 「知ってるわ。白い破風の家に越してきた子」 「うん。まあ、そうだ。トーマス・ヘンリー・デ・ラ・ビーチ」  メアリは崖を一瞥すると一点を指す。 「これ、掘ってごらんなさいな」  白くもろい岩石に黒く覗く艶やかな部分があった。彼は三歳は年下であろうと思われる女の子の指し示すままに白っぽい土を崩してみる。すると三角形の、何かの生物の歯のようなものが現れた。ぎざぎざの縁を持ち、薄く、三角形をしていて黒く滑らかな表面を持つ牙だ。 「すごい。なんだろう」 「サメの歯よ」 「サメ?」 「ブラック・ヴェンでも珍しくないわ。ヘビ石ほどじゃないけれど」 「メアリ、君は小さいのに物知りだね」  少女は肩を竦める。 「もうちょっとあっちの方、大潮の日の引き潮の時間に行くともっと面白いものがみつかるわよ。ここらは、満潮の今の時間だともろい崖の真下に立つことになって危ないわ」  少女が仰いだ崖を彼も仰ぐ。確かに、指で崩せるような岩が断崖となって頭上に被さっていた。 「そうだね。ありがとう、メアリ――」 「アニング」
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