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「ありがとう、メアリ・アニング。僕のことはヘンリーって呼んでくれ」
「わかったわ。じゃあ、またね、ヘンリー。新しいおうちで家具が足りなかったり修理が必要ならアニングに注文をちょうだい。兄はまだ若いけど、しっかりした箪笥を作れるわ。化石の標本が欲しいとか化石掘りのガイドならあたしにいって。どこよりも素敵な化石がお手頃な価格であなたのものになるわ」
少女の提げたバスケットからは金槌らしい握りがはみ出していた。貧しい身なりの彼女は美しさとはほど遠くともヘンリーには好感が持てた。商魂たくましいのも物乞いやケチな犯罪ではなく自らの才で生活を立てようとする気高さと思えたのだ。貴族ほどではなくとも裕福な家庭で育ち、陸軍士官学校にも馴染めず、十代の日々を安穏と過ごす彼にはメアリはまぶしく見えた。
「君は化石採集者(ハンター)なんだね」
「そうよ。ライム・リージス、もしかすると英国、いいえヨーロッパで一番のね」
年下の少女の強気の言葉に十六歳の彼は微笑む。ヘンリーの笑みに応えるようにメアリは不敵に笑った。
「じきにわかるわ」
続きは第23回文学フリマ東京【D-8】にて販売の『世界樹は暗き旋律のほとりに』に掲載。
文学フリマwebカタログ https://c.bunfree.net/c/tokyo23/1F/D/8
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