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僕がこの仕事とは言えないコトを引受けたのには理由がある。
もちろんアオイは知らない。
佐竹さんのアルバイト先での出来事だった。
他人の表情が読むことが出来ても、それだけじゃ駄目なのだ。
僕はもっと人と関わる必要があるのだと実感していた。
『どうだ? 如月』
『全部本当の事です……もっともこの男の中ではですけどね』
『そうか……それで充分だ』
日比谷のビルへ呼び出されたのは十一月の終わりだった。
佐竹さんは初めから諦めた顔をしていて、僕はその表情を半ば理解してモニターを見つめた。
手元には事件の詳細を纏めた資料があった。
被害者の彼女をアイドルと呼ぶべきなのかどうかは、僕が判断する事じゃない。
確かに小さなステージ上で可愛らしい衣装を着て、歌い踊り幸せな笑顔を浮かべる映像を見れば彼女はアイドルなのだろう。
好きな仕事をして生活をする。
それは彼女が夢見ていた事なのだろうけれど、現実はステージで浮かべる笑顔ほど甘くない。
稼がなければ生活出来ないのは、アイドルだって同じだ。
SNSで参加者を募り、熱狂的なファンにアイドルの時間を切売りする。
それが彼女の選んだやり方だった。
もっとも、アイドルらしくカメラの前でレンズに向かって微笑んだりポーズをとったりするだけなのだが……
『僕だけを好きだと言った癖に……僕は裏切られた』
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