ある星の終わり

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 風になびくのは黄金色に輝く草。背は足と同じぐらいで、肌触りは柔らかくまるで絹のようだ。それが、一面に広がる草原はまさに上質の絨毯であるかのよう。ちょっと、横になればそれだけで心地よく眠れそうだ。  草原に寝転がる青年をさらに心地よくさせるように、軽快な音楽と良い香りがする。青年は夢心地になか目を覚ますと、 「なんだ来ていたのか」  身体を起こして草原に続く道をみた。道端にいたのは少女だった。焼きたてのパンと野イチゴからつくったジャム、それに作りたての新鮮なバターをバスケットに入れて鼻歌を歌っていた。  少女は黄金色の草原で寝ていた青年に気が付くと手を振って彼の元までくる。その間も、風に乗ってパンや野イチゴの良い香りが青年の鼻をくすぐっている。 「サーヴァおばさんが、焼いてくれたの。それと、自家製のジャムとバター」  少女はそう言ってバスケットの中からそれを出して青年に手渡し、 「一緒に食べよう」  そう言って、青年のとなりに座った。  座る為にマットは必要ではなかった。柔らかな黄金色の草がその役割を渡していたから。 「ありがとう」  青年は切り分けられたパンを受け取る。できたてのパンはまだほのかに温かく柔らかかった。少し黄色っぽいパンにバターとジャムを塗ると少しずつ食べる。作り立てのパンはそれだけでも甘かったが、バターやジャムを塗るとより一層、香りは際立ち、味が良くなる。これ以上の贅沢はなかった。パン一つで青年はその幸福を味わうことができる。その心に一片の濁りはない。  全ては穏やかな中の出来事だった。人の遙かなる進歩は、いくつもの失敗と成功を繰り返してきた。彼らはその都度、何かを学び反省し、よりより世界をつくる為、努力を重ねてきた。全ての利権、しがらみを取り払い手にした世界はまさに理想ともいうべき世界。  大地にも空にも海にも争いという言葉はなく、誰もが心穏やかに平和に暮らしている。全ての理想が実現した世界に彼らをいた。そして、そこでは幾つもの営みが生まれ、自然に流れる。  平和という名で築き上げられた世界に、破滅の予兆は全くなかった。
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