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「子玉よ、友だちに会えたかい」
内殿近所の茶店で待っていた李哥が尋ねた。
「はい」
「そうか、そうか。これからお世話になる方だ。出仕する時には俺も挨拶に伺わなくてはいけないな」
この日、李哥は京師に行く用事があった。子玉が自分も行きたいというので、その理由を聞き、快く同行を認めた。何事も妻に甘い夫であった
子玉は結局、乳母にはなれなかった。王妃が流産してしまったためである。気落ちしている妻の背をさすりながら李哥は慰めの言葉を掛けた。
「俺はむしろよかったと思っているんだ。お前と離れて暮らしたくなかたんでね」
そうだ、自分には夫と二人の子供がいて家のこともしなくてはならない……。
家族もいて仕事もあって食べていける、これ以上望むのは過分なことだ、子玉は自分の思いを整理した。
「そうだ、そろそろ鍾の一歳のお祝いをしなくては」
乳児の死亡率が高かったこの時代、一年間無事に生きられたということはとても目出度いことであった。
ちょうどこの時、青郁から祝物が届いた。女の子用の祝着と装飾品、裁縫箱と文箱だった。
―碧香さまは鈴香(鍾)のことも気にかけてくれたのね。
子玉の胸は熱くなった。
「立派なものだ。これを祝の膳に飾ろう。」
こう言いながら李哥は娘の誕生宴の準備を始めた。
そして当日。着飾った鍾の前にはご馳走と青郁からの祝物が並べられた。子玉の家族も呼ばれ賑やかな祝宴となった。青郁からの晴れ着を身に付けた愛娘の可愛い姿を見ながら、この場に碧香さまがいないことを残念に思う子玉だった。
王妃の流産を知り愕然となった青郁だが、すぐに気を取り直し次の手を思案した。とにかく珠香を側に置くこと、出来れば彼女の娘・・鈴香も養育したい……。
――そういえばもうすぐ鈴香の誕生日ではないか。
まずはお祝いしなくてはと、青郁は晴れ着や子供の将来を予祝して裁縫箱と文箱を贈ることにした。子玉と同じように賢い娘に成長するようにと。
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