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二人が大妃殿に来てから早くも二年の月日が経った。
田舎娘に過ぎなかった子玉にとって、この二年は目まぐるしいものだった。子玉ほどではないが、青郁にとっても変化の多い時期だった。
早春のある日のことである。たまたま二人とも一日中勤務がなかったので殿中の庭を散策した。人目が無かったので手を繋いで寄り添って歩きながら去りし二年間についてあれこれ語り合った。ふと片隅に目を遣ると満開に花を付けた桃の木を見つけた。
花の時期には少し早かったので、二人は木に近寄った。
桃の木の下に来ると、
「われら同年同月同日に生まれ得ずとも同年同月同日に死せん事を願わん」
二人は同時にこう言ってにっこりと笑った。たとえ、血が繋がっていなくても自分たちは肉親以上の間柄である、これからもずっと一緒にいようという誓いであり願いだった。
「三国志では三人だけど私たちは二人きりね。」
青郁がこう言うと
「でも私たちは、劉備や関羽、張飛よりもずっとずっと強い絆で結ばれていますよね」
と応えながら子玉は、しっかりと青郁の腕にしがみ付いた。
それから数日後のことである。
「子玉! 面会が来てるよ」
顔馴染みの内侍(宦官)が洗濯物を部屋に持ち帰ろうとした子玉に声を掛けた。
「誰だろう?」
ちょうど仕事も一段落したこともあり、子玉は外庭に出た。面会人とは原則としてここで会うことになっているためである。殿内で働くものはこれより外には出られず、外の者はここから奥には入れない。ここは内外の中継地のような場所であった。それゆえ、内外の人々が面談できる施設も用意されていた。
外庭に来たのは、大妃殿に初めて足を踏み入れて以来である。そのせいか、子玉はこの場所についてはよく覚えていなかった。
突然、彼女を呼ぶ声がした。振り向くとそこには、二人の弟と彼女をここに連れて来た負商が立っていた。
「姉ちゃん」
子石と子岩だった。別れた時は幼かった二人もすっかり少年らしくなっていた。
「子玉や、別嬪さんになったなぁ」
負商は感慨深げに言った。これに対して子玉は
「おじさんったら、相変わらず口がお上手ね」
と照れたように応えた。以前のようにおどおどしたところが少しも感じられなかった。負商は内心「この子は殿中でうまくやっているようだ」と判断し、ひと安心した。
「立ち話も何なので、向こうに行こうか」
負商は手馴れて感じで、子玉姉弟を近くの建物に誘導した。室内は殿中で働く人々の家族や友人、知人、大妃殿相手に商売する人々でいっぱいだった。ちょうど空いた卓があったので子玉たちはそこに座って、その間のことを語り合った。弟たちが姉に会いたい、都を見たいというのでちょうど村に来ていた負商が連れて来たのだそうだ。数日滞在するというので、明日も来るといってその日は別れた。
殿内の出入り門まで来ると
「子玉!」
と馴染みの声で呼びかけられた。
「青郁さま」
振り向くと、青郁と彼女によく似た若者が立っていた。
「子玉も誰か会いに来たの?」
「はい、弟たちが」
「私も弟が会いに来たの」
と隣に立つ若者に挨拶するよう促した。
「徐青烟、真名は碧雲と申します。」
子玉は真名まで言ったことに驚いた。
「私たちは姉妹なんですもの。青烟は子玉にとっても弟なのよ」
――だから、真名まで教えてくれたのね
子玉が嬉しい気持ちで納得した。
「……これからも、姉を宜しくお願いします。子玉姉上」
「姉上だなんて、子玉で構いません」
良家の若さまに姉上なんて呼ばれるのは、とんでもないことと、子玉はひたすら恐縮するのだった。
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