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歳月は流れ、いつの間にか二人が大妃殿に来てから十年になっていた。
見習い宮女だった青郁も生閣氏、内人、尚宮と位階が上がり、今や大妃の筆頭秘書格である致密尚宮になった。そして子玉も端女のリーダー格となった。
青郁の希望もあり、彼女の世話係は引き続き子玉が担当し、同じ部屋で暮らした。部屋は以前よりも広くなり、調度品も増やすことが出来た。
立春が過ぎ長けれど、まだ肌寒さが残るある日、子玉は部屋の中で一番暖かいところに座り、針仕事をしていた。青郁は今日も仕事である。
部屋の戸が突然開き、「部屋の中は暖かいわね」といいながら青郁が入ってきた。
「お帰りなさいませ」
子玉は立ち上がり、青郁の世話を始めた。
「今日は何を作っていたの?」
先ほどまで子玉がすわっていた場所を見ながら青郁は訊ねた。
「香袋を作っていました」
色とりどりの布切れがそれを示していた。
「子玉はお針も上手だし、賢いし、働き者だし、おまけに可愛いし。子玉のお婿になる人は幸せね」
「私は誰とも結婚いたしません」
子玉は頬を膨らませて応じた。
「そうよね。私たちは結婚出来ないものね」
青郁は笑いながら言った。
しかし、子玉の内心は違っていた。
――私は碧香さま以外の誰のものにもなりません。
こうした日常がずっと続くことを二人は願っていた。
だが、それは適わなかった。穏やかで充実した生活は突然終止符を打ったのである。殿舎の主人である大妃が亡くなってしまったためだ。既に高齢だった彼女ゆえ、いつ冥界に旅立ってもおかしくはなかったが……。
主人が亡くなったため、仕えていた人々は失職した。取り敢えず、皆、それぞれの家族の許へ引き上げた。青郁も子玉も実家に帰ることになった。二人は離れがたかったが、どうにもならなかった。
「近いうちに絶対また一緒に暮らそうね」
「はい」
二人は涙を流しながら抱き合い、再会を誓って別れたのだった。
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