悲しき子守唄

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「眠られたか?」 「ああ、穏やかなお顔だ」 「そうか」  黒いマントに身を包んだ二人の男が、柩に横たわる幼い少女を見下ろしていた。  ゆらゆら揺れるろうそくの灯りは、端正な二人の横顔を照らし出している。 「しかし、何故リューシア様が眠らねばならぬ? 先にお産まれになったのはリューシア様。お世継ぎは姉であるリューシア様が妥当だろう?」 「それを言うな、アーベンリッヒ。もう決まった事だ」 「しかし……!」  アーベンリッヒと呼ばれた黒髪の男が、向かいに立つ金髪の男を睨みつけた。 「しかし、こんなやり方はないだろう? 健やかにお育ちだったのに……。お前は、何も感じないのかティルギス?」  金髪の男はじっと目を閉じると、再び視線を落とした。 「私とてすべてを納得した訳ではない。尊き幼い姫を、2度と目覚めぬ眠り淵へ追いやるなんてな……。だが、陛下の命には逆らえない。お前も分かっているだろ?」 「分かっているさ! だからこそ余計に腹が立つのだ。何も出来ぬ自分に……!」  アーベンリッヒは悔しげに唇を噛んだ。 「強い力は疎まれる。そして、狙われる。リューシア様は強い魔力を持ってお産まれになった。だから、陛下に疎まれたのだ」 「眠らせたまま、その魔力だけを吸い上げようだなんて……。それが親なのか? 兄弟なのか?」 「仕方がないさ。それが、この国の理なのだ」 「ちっ……。まったく、嫌になるぜ」  アーベンリッヒは、醜いものを見るように顔をしかめた。  ティルギスは身を屈めると、柩に眠る少女の髪にそっと触れる。 「私達に出来ることは、せめて美しく眠らせて差し上げる事だけ。それが、人に囚われた『夢魔』の役目なのだから」 「ああ、分かってるさ」  そう言って、アーベンリッヒも柩に屈み込んだ。
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