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「君、そんなところで何してるの?」
少女の耳には届いていたが、どうせ他の人に言っているに違いないと、夕日で輝く川をじっと見つめる。
「ねぇ、君に聞いてるんだけど……無視?」
「わわっ」
今度はその声が隣から聞こえ、慌てて少女は振り返る。
そこには自分より少し年下の眼鏡を掛けた、学ラン姿の黒髪の少年がいた。まだ声変わりしていないのか、男にしては高い声だった。
「わ、私に……聞いて、くれたの?」
「質問の答えになってない。僕は君にここで何しているか聞いてるんだけど」
「……ここで、ぼーーっとしてただけだけど?」
少年の上から目線の言葉に加え、無愛想な物言いにイラつき、つい喧嘩腰な返事をしてしまう。
ーーあぁ、もう……折角久しぶりに人と話せたのに。
内心落ち込む少女に対し少年は生返事をし、口を開く。
「僕は宮本光也。君の名前は?」
「私?私は千明楓だよ……ねぇ、また明日ここで会える?宮本くんと話したい」
話していたら、大分日が落ちており夜に変わろうとしていた。
「光也で良い。良いけど……一つ条件がある」
「本当っ!?やった……って、条件って?」
楓は首をかしげ、光也の言葉を待つ。
「僕に絶対触らないこと。約束できる……?」
不安げに伺う彼の姿勢に、若干驚く。
「何だ、そんなこと。うん、分かった。じゃあ、また明日ね光也くん」
快く頷く自分を見て彼は少しほっとした顔を見せた。
この彼との約束の意味を知るのは、もう少し先のこと……。
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