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「あっ、光也く~~んっ。こっちこっち!」
「…………うるさい」
それから楓は毎日夕方になると、川原で光也と会うようになっていった。
彼は楓の予想通り自分より年下の中学一年生ーー十二歳だった。ほっそりとしていたから文学少年かと思いきや、剣道部に入っているらしい。
自分が彼に一方的に話しており、彼の対応は素っ気ないものだったが、それでも話せるだけで嬉しかった。
「私に気づいてくれてありがとう」
ある日そんなことを言った時も、ぞんざいな物言いで一言。
「別に」
それは照れると極端に口数が少なくなるーー彼の癖だと知るのは暫くしてからだ。
ーー光也くんって、一見冷たく見えるけど優しい子だよね。
そんな風に楓が思いを馳せて笑っていると、光也はこちらをちらりと見て呟く。
「急に一人で笑い出して……変なの」
「ちょっ、女の子に変とは失礼なっ」
彼女が眉をしかめ唇をとがらせると、彼は失笑する。その笑顔に心臓の鼓動が早まる。そんな二人を夕陽が暖かく見守っていた。
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