2人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の夕方は、いつもと違った。楓が部活終わりの光也を待ち、彼が来ると川の近くの草原に座り談笑する。そうしているとーー。
「あれ、光也?珍しいね、あんたがこっちの方から帰るなんて……」
「春香……」
ーーはるかって、この前のLINEの相手だったっけ……?
こちらに近づいてくる少女は、髪を下の方で二つにくくり、赤いリボンが結ばれたブレザーを着ていた。
「…………ん?光也の隣にいるアンタ、誰?」
「あ……えっと、私は千明楓。あなたが、はるかさん?」
「うん、あたしは桜木春香。春の香りで春香……何でカエデがあたしの名前知ってるの?」
眉間にシワを寄せる春香に、楓は光也から話を聞いたことがあると言うと納得した。
「そうだったんだ!あ、ちなみに光也はあたしの彼氏だから奪らないでね?」
口を弧に描く彼女を見て、心臓がどくりと嫌な音を奏でる。
「お前の彼氏になった覚えはない。ただの腐れ縁だ」
光也は仏頂面で春香にそう言い放つ。瞬間、彼女の顔は曇り、ぱっと笑顔を浮かべ幼馴染みって言ってよ、と肘で彼を突く。
その光景をぼんやりと楓は眺め、春香は光也に好意を持っていると直感した。そして、何よりーー。
「春香ちゃんは光也くんに触れて良いんだ……」
「千明。今、何か言った?」
「…………ううん、何にも言ってないよ」
最初のコメントを投稿しよう!