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その理由
ーーもうそろそろかな……。
いつもの夕焼け。流れる川。それらを眺めて、楓はいつものように光也を待っていた。
「あっ、光也くーー」
待ち望んだ姿を捉え、声をあげるが彼の様子がおかしい。頭をもたげ、足を引きずるように歩いている。
「大丈夫?体調悪いの?」
「心配ない」
駆け寄ると顔色も悪く、ますます心配になり問いかけるも相変わらずの受け答え。楓は納得がいかないものの、取りあえず彼に座るよう促す。
ーー春香ちゃんじゃないと、素の自分にはなれないのかな……。
ふと浮かんだ考えに嫌な気分になり、顔を横に振る。
「千明。君こそどうした?様子が変だ」
「いや、何でもっ。私の前じゃ素の姿を見せられないのかとーー」
「…………」
「…………」
ーーって、全部言っちゃってるじゃん私~~っ。
体操座りして膝に顔を埋める。すると聞こえてきたのは笑い声。
「馬鹿だな、君は」
「なっ」
「初めから取り繕ってなんかいない。不要の心配だ」
その笑顔があまりにも綺麗で、光也の体調のことは頭から吹っ飛んだ。それを後悔するのも、もう、遅いーー。
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