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「もう、ほんと、信じらんない。初対面の相手との待ち合わせにさあ、一言も連絡なく遅れてくるとか、最低!
こんなアホみたいに豪華なホテルで、てろってろのワンピースなんか着せられて、ハイヒールなんか履かされてさあ、あたしがどんな気分で一人ここで待ってたか分かる!?」
あたしが一気にまくしたてると、寅吉はしばらくぼうっとした表情であたしの顔を見つめていた。
ごめんくらい言えよ!と声をあげそうになったとき、寅吉はいきなり、がばっと立ちあがった。
あたしは驚いて寅吉を見上げる。
寅吉のこんな機敏な動作は、初めてだった。
いったい、なにごと??
もしかして、隠していたあたしの本性が分かって、なんて女だって呆れて、もう帰ろうってこと??
そんなことを考えていると、寅吉はさらに驚きの行動に出た。
「――――えっ、えぇっ!? ちょ、ちょっと、寅吉、さん!?」
寅吉が、唐突に、両膝をついたのだ。
つやっつやに磨かれた大理石の床に、柔道着の膝を。
しかも、それだけでは飽き足らず、両掌までついた。
そのまま、床につきそうな勢いで、がばりと頭を下げる。
そう、いわゆる、『土下座』、である。
「ちょっと、こんなとこで、いきなり何すんのよ!!」
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