憂鬱なソネット

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………にしても、なぜ? 暗いうちに、たぶん朝5時とかに家を出て、始発に乗って、電車で30分で着くはずなのに、なぜ11時の待ち合わせに遅刻? その答えは、すぐに、顔を上げて話し始めた寅吉の言葉で、わかった。 「ここの最寄りの駅を降りて、このホテルまで来たんですけど。入り口に立っていた制服の人に呼び止められて」 そりゃそうだ。 柔道着でぼさぼさ長髪のもさい男がこんなところに現れたら、普通に職務意識を持ったホテルマンなら、誰だって止めるだろう。 「で、お見合いがあってラウンジに行きたいって伝えたら、まだ開店してませんって言われて」 そりゃそうだ。 たぶん寅吉は、遅く見積もっても6時過ぎにはホテルに着いたはず。 ラウンジが開いてるわけない。 「それで、時間まで外で待ってようと思ったんです。でも、花壇のところに座ってたら、あんまりいい天気だったんで、散歩したくなって」 「はあ、なるほど、散歩ね……」 「川べりの道を歩いてたら、しばらくして腹が減ってきたんで、そろそろ11時くらいかなと思って、戻ってきたんですけど。まさか遅刻したなんて、そんなにあなたを待たせていたなんて、本当に、面目ない」 寅吉はもう一度、がばりと頭を下げた。
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