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「あやめさん。似合ってません、全然」
……はっ? と、あたしは自分の耳を疑う。
いま、この男、なんて言った?
お見合いで出会った初対面のレディに、なんて言った?
『ニアッテマセン、ゼンゼン』?
って聞こえたんですけど、マジで?
「……………っ」
「?」
「あはははははっ!!!」
気がつくと、あたしは、完全に場違いな笑い声を上げていた。
しかも、ラウンジ中に響き渡るほどの大声で。
もちろん、ロマンスグレーの髪にイタリアンスーツの紳士たちの視線は、土下座をしている柔道着男ではなく、ドレスワンピースにばっちりメイクで大笑いしている女に集中。
そして、さすがの柔道着男も、きょとんとした顔をしている。
そんな周りの状況が、しっかり分かってるんだけど。
あたしはもう、笑いをこらえることができなかった。
「あはははっ、もう、おかしい! おかしいよ、おもしろすぎるっ!!」
「え……っ、ど、どうしました、あやめさん?」
寅吉が戸惑ったように身を起こし、あたしの腕をつかんで立ち上がらせた。
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