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「そうでしたか………。俺、またあやめさんに、嫌な思いをさせてしまったんですね」
申し訳なさそうに目を伏せた寅吉が、いそいそと立ち上がって再び土下座をしようとするので、あたしはそのすねを思いっきり蹴りつけてやった。
「いったぁ………な、なにするんですか、あやめさん」
「もーいーよ、あたしは別に怒ってるわけじゃないんだから」
「え、そうなんですか。よかったぁ」
寅吉は、ほっとしたように頬を緩めた。
…………あ。
笑うと目尻が下がって、なんか可愛い。
そう思って見てみると、ぼさぼさ頭も無精ひげも猫背も、なんだか可愛く見えてくるから、不思議だ。
怒られずにすんでほっとしている子どもみたいな顔をしているのがおかしくて、あたしはぷっと吹き出した。
あー、もー、だめだ。
完全にツボに入っちゃった。
あたしがくすくす笑っていると、寅吉が急に「うん」と大きく頷いた。
「なに、うんて」
「うん、やっぱり」
「なによ、やっぱりって」
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