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寅吉がふわっと笑って、あたしの顔を見つめながら言う。
「あやめさん、笑うとすごく可愛い」
「…………え」
変人キャラからは想像できない発言に、あたしは目を丸くする。
寅吉はかまわず、言葉を続けた。
「あやめさんは、さっきみたいにすましてないで、そんなふうに大声で、遠慮なく笑ってるほうが、ずっと素敵だ」
「…………そ、そりゃどうも………」
な、なに、この豹変ぶり………。
突然、表情ゆたかになった寅吉は、にこにこしながらあたしの顔をじーっと見ている。
「服とか髪も、そんな不自然なのじゃなくって、自分の好きな格好のほうがいいよ」
「………まぁ、あたしもそれには同感」
あたしが頷くと、寅吉は嬉しそうに、あははと笑った。
「あやめさん。外に出よう。あやめさんは、ここ、好きじゃないんでしょ?」
寅吉が革張りのソファから立ち上がり、あたしのほうに手を差し出してきた。
あたしは、にっと笑う。
「うん。こんなとこ、だいっきらい」
あたしははっきりと宣言し、寅吉の手をとった。
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