憂鬱なソネット

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「あやめさん、俺につかまって、靴ぬいで」 「うん」 あたしは素直に頷く。 しゃがみこんでいる寅吉の肩に手を置いて、爪先を痛めつける憎きハイヒールを脱ぎ捨て、ぽいっと放り投げた。 ついでに、大嫌いなストッキングも脱ぎ捨てる。 「あー、すっきり」 あたしがそう言うと、寅吉はあたしを見上げてにこっと笑った。 あ、やっぱり、笑顔、可愛い。 はだしになったあたしの足を、寅吉はがしりとつかんだ。 バランスを崩しかけて、あたしは慌てて寅吉の両肩を手でつかんだ。 「危ないからちゃんとつかまっててね」 と寅吉は言いながら、あたしの足に柔道着の袖を履かせる。 そして、半分になった帯でぐるぐると結んだ。 「よし、これなら歩けるね」 寅吉が満足気に笑って、立ち上がった。 ムートンブーツよりももこもこした足下を見ると笑えたけど、悪くない。 「うん。ありがと。ちょっとごわごわするけど、ハイヒールより1000倍いい」 「よかった」 あたしたちは軽やかな足取りで、ロビーをつっきり、豪奢なエントランスから外に出た。
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