憂鬱なソネット

25/29
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「あ、そういえば」 あたしが唐突に声を上げると、寅吉が「ん?」と首を傾げてあたしを見下ろしてきた。 「詩人の件、素通りしてた」 「あー、そういえば」 寅吉がぽんと手を打った。 「あんたは旅人で、詩人で。でも詩集は出してないし、ネットで披露もしてないと」 「うん、そう」 寅吉はなんでもないことのように頷く。 「じゃ、あんたの詩はどこに公開してるわけ?」 あたしが怪訝な顔で問うと、寅吉はへらりと笑った。 「詩は公開してないよ。ぜんぶ頭の中」 「ははっ、なにそれ。頭の中で作って、頭の中にとってあるだけってこと?」 「うん、そう」 「それ、詩人って言わないから!!」 「そうかなぁ。でも、あやめさんが、他の仕事もあるでしょって言うから、俺なりに考えた結果」 寅吉は真面目くさって答えた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!