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「あ、そういえば」
あたしが唐突に声を上げると、寅吉が「ん?」と首を傾げてあたしを見下ろしてきた。
「詩人の件、素通りしてた」
「あー、そういえば」
寅吉がぽんと手を打った。
「あんたは旅人で、詩人で。でも詩集は出してないし、ネットで披露もしてないと」
「うん、そう」
寅吉はなんでもないことのように頷く。
「じゃ、あんたの詩はどこに公開してるわけ?」
あたしが怪訝な顔で問うと、寅吉はへらりと笑った。
「詩は公開してないよ。ぜんぶ頭の中」
「ははっ、なにそれ。頭の中で作って、頭の中にとってあるだけってこと?」
「うん、そう」
「それ、詩人って言わないから!!」
「そうかなぁ。でも、あやめさんが、他の仕事もあるでしょって言うから、俺なりに考えた結果」
寅吉は真面目くさって答えた。
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