憂鬱なソネット

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「………もー。あんたほんと、どんだけ予想外なこと連発するわけ?」 あたしの心臓、やぶれたらどうしてくれるのよ。 「え? 俺またなんかした?」 「いーのいーの、こっちの話」 「ふぅん?」 寅吉は目を丸くしていたけど、それきり黙って空を見上げた。 街路樹の下、降り注ぐ木漏れ陽が寅吉の顔を彩る。 ついでに真っ白なキャンバスーーーじゃない、柔道着も彩る。 「………ね、寅吉」 あたしはポプラの梢を見つめながら言う。 「んー? なに、あやめさん」 「寅吉の詩、聞かせてよ」 寅吉は今度は意外にも、「えぇっ?」と驚き、そして戸惑った表情。 「やだなぁ、恥ずかしいよ」 今度はあたしが驚く番だ。 「なに、あんたにも人並みに羞恥心とかあるんだ」 「あるに決まってるよ」 「柔道着、着てるくせに?」 「え、柔道着はちゃんとした正装でしょ」 「正装かー?」 「だって、試合とかでも着るんだし」 「それは柔道の選手だからでしょ……」 「そんなもんかなぁ」 「ま、この際どうでもいいけど」 なんせ、あたしは柔道着の袖を履いてる女なのだ。 「ならよかった」 寅吉はにこっと笑った。 あーくそ、やっぱ笑顔、かわいい。
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