憂鬱なソネット

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「……うしっ、飲み行くぞ、寅吉!」 あたしは寅吉の肩に腕を回し、大声で宣言した。 寅吉が目を丸くする。 「えぇっ、これから? こんな昼間に?」 「休みに昼から飲んで何が悪い!!」 「あやめさんって変わってるね……」 「あんたにだけは言われたくないわ!!」 あたしは寅吉に二度目の蹴りを入れ、あははと笑いながら、駆け出した。 走りながら、空を見上げる。 見たこともないくらい青く澄んだ空。 見たこともないくらい目映い光。 見たこともないくらい色鮮やかな街の景色。 たった数時間前とはまったくちがう世界にいるような気がした。 今朝までは、あんなにも味気なくてつまらない場所に思えていたのに。 面倒くさい、気乗りがしない、と暗く鬱々とした気持ちでいたのに。 こんなにも世界は変わった。 それは、きっと。 あたしは振り向き、太陽の下を柔道着で駆け抜ける寅吉を見た。 このひとといれば、あたしはきっと一生、退屈することはないんだろうな。 それは、確かな予感だった。 【完】
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