憂鬱なソネット

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「どうも……初めまして」 ぼんやりとした顔で目の前に立ちはだかり、ぼそぼそとあたしに声をかける柔道着男。 近くで見ると、無精ひげまで生えている。 もう、場違いもいいところ。 場違いどころか、次元が違う。 とにかく、柔道着男と、男の背景とが、ミスマッチすぎて、もはや完全にコントだ。 「藤沢さんですよね? お見合いの」 男がくぐもったような小さな声で、もう一度訊いてくる。 うそ………まじで? お見合いの相手、この変人………? あたしは、全力で「違います! 私は藤沢でありません、断じて!」と否定したくなった。 そして、それを実行しようと、大きく息を吸い込んだんだけど。 「じゃ、ちょっと、失礼します」 柔道着男は、あたしの返事を聞く前に、のっそりとあたしの向かいのソファに座った。 ラウンジ中の視線が、あたしたちの席に集中している。 そりゃあそうだろう。 まさかの柔道着男が、いったいどんな人間とお茶をするのかと思って見ていたら、相手はばっちりヘアメイクにドレスワンピースで着飾った女なのだ。 気になるに決まっている。 居たたまれなくなったあたしは、パーティーバッグをひっつかんで、即座に帰ろうとした。 でも、その瞬間、男が「はじめまして」と頭を下げてきたのである。 「俺、西郷寅吉っていいます」 「………あ、どうも」 あたしは立ち上がるタイミングを完全に逃してしまった。
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