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寅吉は眠たげな目をぱちりと瞬かせて、ゆっくりと口を開いた。
「あぁ………。親に『今日はお見合いなんだから、ちゃんとした格好していけ』って言われたから」
「………いや、それでなぜに柔道着?」
「汚れてないちゃんとした服で行け、って言われて
タンスのなか探してたら、汚れも破れもない服、これしかなかったんで」
「………だとしても、おかしくないですかね?」
あたしは、我ながら至極まっとうなツッコミを入れる。
でも、寅吉は首を傾げるばかり。
「そうかなぁ、おかしいですかね?」
「だって、ここホテルですからね? しかも超高級な」
「この柔道着、高校のとき体育でちょっと使っただけで。白いしきれいだし、これなら大丈夫かなと思ったんですけど」
「どこが大丈夫なんですか………。言っちゃ悪いけど、あなた、めちゃくちゃ浮いてますから」
あたしは絢爛たるラウンジの瀟洒な調度品や、小洒落た人々を差し示した。
寅吉はあたしの指を追うように、ぐるりと視線を巡らせる。
そして、やっぱり不思議そうに眉根を寄せて。
「………そうかなぁ?」
だめだこりゃ、とあたしはうなだれた。
予想以上に話が通じない………。
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