憂鬱なソネット

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憂鬱なソネット

* 伯母さんがある日突然うちに訪ねて来て、こんなことを言い出した。 「ねえ、あやめちゃんも、もう三十路目前でしょ? 私の職場の上司の息子さん、紹介するから、会ってみなさい」 もちろん、あたしは即座にお断りした。 いまどきお見合いなんて、時代錯誤もいいとこだ。 合コンだって苦手なのに、お見合いなんてもってのほか。 恥ずかしすぎるし。 でも、伯母さんの押しは非常に強かった。 「別に会っても何か損するわけじゃないんだし」 「はぁ……まあ確かにそうですけどねえ」 私は乗り気ではないことをそれとなく伝えるために、曖昧な笑みを浮かべ、返事も尻すぼみにしてみせた。 それでも伯母さんは気づいていないのか、気づいていて素知らぬふりをしているのか、ぐいぐいと近づいてくる。 「別に減るもんでもないでしょ?」 「そりゃあ、まあ……」 「ほら、騙されたと思って!」 「…………」 騙されたらたまったもんじゃない、と思ったけど、いちおう口には出さずに我慢する。 あたしがどう断ろうかと頭を悩ませていると、突然、お母さんがにこやかに口をはさんできた。 「あやめ、とにかく会ってみればいいじゃない」 ーーーそう。 つまりお母さんは、義理の姉である伯母さんが怖いのだ。 伯母さんは少しヒステリー気味なところがあって。 一度気分を害してしまうと、何ヶ月、何年と、ギスギスし続ける羽目になる。 とにかく父の親族と穏便にしていたいお母さんは、伯母さんとの関係性を良好に保つため、娘のあたしを生け贄に捧げた、というわけである。
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