第一章

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わたしが中学生だった頃、父が長年勤めた寿司屋を退職して独立した。 自宅を改築し、一階を店舗で二階を住まいにすることで固定費を最小限にして 営業をスタートしたのだ。 開店して数年は吟味されたネタのよさもあって、クチコミで顧客も増えていったが、 徐々に大手による回転寿司のチェーン展開の影響を受け、客足は年を重ねるごとに 目減りしていった。 そんな中、常連客だった米川光男に母が冗談半分で愚痴をこぼしたのがきっかけで、 商店会の会合やら自分の顧客の接待に利用してくれるようになった。 米川は、地元の不動産会社の社長で押しも強く、坊主頭で大柄な風袋は見た目も小柄で 性格も穏やかな父とは対照的だ。 わたしは、米川のことを勝手に「海坊主」とネーミングすることにした。
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