第1章

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そして更に赤澤さんは伏し目がちにボソッと呟いた…。今日は俺の誕生日なんだぁ…と。 「赤澤さん。お誕生日なんですか?」 「そっ。マスター…祝ってよ…なんてね。めでたくなんてないってのぉ…。」 「赤澤さん?」 「ヘ?」 あれ?既に酔っ払いだ。どうしたものか。この人は寂しいのだろうか…。 目の前で頬杖をついてグラスを見つめる赤澤さんを黙って見ていた。 「マスター。」 「はい。」 「この店は居心地がいいなぁ…マスターはさ、余計な事は言わないし、俺、かなり気に入ってるんだ。ここ。」 「ありがとうございます。」 赤澤さんに苺のタルトを出した。 「頂き物なんですが、よろしければ召し上がって下さい。お誕生日、おめでとうございます。貴方に良い事がたくさんありますように。」 「えっ…。マスター…ありがとう…。マジで嬉しい…。」 赤澤さんは涙ぐんで微笑んだ。 また、人の人生の一部を見てしまった…。この店を始めてから、人の生き様を目の当たりにする事が多くなった…それなりの対応も出来る…だからと言ってどうっという事もないのだが。
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